牙狼シリーズ屈指の意欲作 GARO -VERSUS ROAD- 総括
半年ほど前になりますが「GARO VERSUS ROAD(以下VR)」を視聴したので感想を書きます。
私は牙狼(2005)は好きですが牙狼シリーズそのものはそこまで好きではありません。
綺麗に完結した「牙狼」にレッドレクイエムやMAKAISENKI、しまいにゃ絶狼シリーズのような蛇足な続編や外伝をダラダラと付け加えるやり方には不満しかありませんでした。
なので完全新規のアニメ展開は非常に楽しめましたし、私が一番好きな牙狼は「炎の刻印」です
特撮版二作目の完全新作「闇を照らす者」はお世辞にも良作と呼べる出来ではありません。
しかし、冴島鋼牙から脱却し新たな世界観で完全新作を作った事に意味があります。
尤も、このユニバースでもジンガに味をしめて蛇足な展開ばかり続けてしまうのですが…
そんな牙狼原理主義者の私が本作「VR」を見て思った事を書き連ねて行きたいと思います。
まず主人公空遠世那(演:松大航也)を見て「華がない」「牙狼の主役っぽくないな」と思いました。
彼は人一倍正義感が強いですが、ただの大学生であり騎士の家系ではないし身体もろくに鍛えていません。顔も正直芋っぽくて鋼牙や流牙のような所謂イケメンではないな、と。
しかしここがこの作品の一番すごい点です。
「一般人がヒーローになる」という作風は東映特撮などでは鉄板ですが、牙狼シリーズにとっては初の試みでした。
激走戦隊!「心は」カーーーレンジャー!
この他にも「電磁戦隊メガレンジャー」や古くは「機動戦士ガンダム」などにも見られるこの作風、私なんと大好物でございます。
我が‘‘心は’’ガロ!黄金騎士だ!
が見られたのはとても嬉しかったです。
既にVRを視聴している人向けなので世界観や物語の説明は省きますが、黄金騎士の家系の腐敗ゆえの一般人からの選定というとんでもない設定のおかげでこの展開を実現できたのです。
しかし古くは「闇を照らす者」で輝きを失った牙狼や今回の黄金騎士の腐敗のような設定は旧シリーズが好きな人にとってはかなりショッキングだと思います。
今作のテーマは偶像破壊。護りし者の本質を問い直す、というものでした。
しかしこの作品は偶像破壊が過ぎています。
せっかくスーツをこしらえたサイバーパンクな改造ホラーも飼い慣らされたお飾りです。
何が言いたいのかと言うと本作は絶望的にエンタメ性が欠如しています。
牙狼とは「多少話がつまらなくてもアクションと映像美は保証されている」シリーズです。
鎧やホラーがフルCGでチープさが否めない闇を照らす者でさえスタントにお金をかけていてアクションに非常に見応えがあります。
特撮OBや大物俳優を出す集客もします。
「VR」には今挙げた要素が何一つありません。
鎧は最終回でしか纏わない、ホラーは出ない、アクションはHIGH&LOWやクローズなど往年のヤンキー映画を思わせる泥臭いステゴロ、ボイメン勇翔のしょぼいアクション…
シリーズに今までにない新しい風を吹かせようとした結果「シンプルに面白くない」という本末転倒な結果に…
しかし、最終回ではいかにもなバーチャルワールドで満を持して世那が纏った牙狼と葉霧が纏う暗黒騎士ベイルが激突します。
この作品は最終回に全てを懸けています。
散っていった仲間の技を繰り出しべイルを圧倒する姿は第一期の「英霊」のオマージュでしょう。
シリーズ屈指の熱いラストバトルです。
このラストバトルだけで面白くない1~11話を耐えた甲斐がありました。
葉霧との最期の問答は思わず涙が溢れました。
しかし、葉霧は真の黒幕である伽堂アザミに殺されてしまいました。
アザミは葉霧にダークメタルの素晴らしさを説き、バーサスロードの殺し合いを「楽しいから」という理由で運営しているまさに吐き気を催す邪悪です。
こいつは本当にクズなので終盤でナグスケに唾を吐きかけられるシーンは本当にスカッとしました。
しかし、倒されることはありませんでした。
もう一度言います。
倒されません。
この作品は最終回に全てを懸けています。
この作品は最終回に全てを懸けています。
この作品は最終回に全てを懸けています。
最終回に全てを懸けた構成でありながら、オチで盛大にしくじってしまいました。
「逃げる勇気」「生きていく責任がある」という感想を見たことがありますが、お笑い種ですね。
「GARO VR」としては正しい決断だとしても「牙狼」もとい「特撮ヒーロー作品」としてこんなお粗末なオチがありますか?
「あの」闇を照らす者でさえ金城滔星を殺しています。相手が人間だからという言い訳は通用しません。
生きなきゃいけないならさっさと鎧を纏ってアザミを殺して生きればいいのです。
そりゃあ世那は優しいからもう誰も殺したくないという気持ちはわかります。
誰一人直接手にかけていませんからね。
しかし、アザミを殺さないことによって「資格を捨て牙狼にならない」「人を守るために人を殺すこんな偶像の剣はいらない」という世那の決断が
死ぬの怖いし誰かを殺す責任を負うの嫌だからやーめたw
というお粗末なものに見えてなりません。
エンタメ性を捨ててまで最終回のために全てを懸けて最後に大コケしてしまった作品。
それが本作なのです。
大傑作になり損ねた駄作
というのが個人的な評価です。
駄文に付き合っていただきありがとうございました。